2015.10.11
宮崎です。だいぶ遅くなりましたが、夏合宿4日目、西村、宮崎、早戸、吉川の4人の記録です。
真砂沢テント場5:30-6:30源治郎尾根Ⅰ峰中央ルンゼ取り付き8:30-10:00剱岳南東壁(?)取り付き-14:30剱岳山頂-17:30真砂沢テント場
合宿四日目、三日分の疲労をため込んだ足はガチガチだった。
「みんなそれぞれの目標を達成したし、予定を一日早く繰り上げて下山してもいいんじゃないか…?」
そんな空気すら前夜のテント内には蔓延。しかしその夜に遅れて合流した西村代表のテンションは、それを許すほど低くはなかった。
みんな覚悟を決めて繰り出した先が、あまり歩かなくて良い上部岩壁とつなげれば12ピッチになるという源治郎尾根Ⅰ峰側壁だった。
狙いは中央ルンゼから成城大ルートへの継続。下りは懸垂下降で帰る気満々だ。
意気揚々と出発した4人は中央ルンゼへ。しかし雪渓が取り付きに繋がっていない…。
雪渓の端はすっぱり切れ、落ちたら明らかにOUT!!な口を開けていた。
そこで、取り付きから10mほど下で雪渓を飛び越え、岩壁を越えてアプローチすることに。きれいな凹角のフィンガークラックがあるのでいけるだろう…と楽観ムードで取り付いた。
ところがどっこい、クラックにたどり着くまでが悪い悪い。
足元が不安定なスラブ状の岩盤に取り付くと、乗っていたi-pad大の落石がイボGの膝を直撃。イボGが耐えてくれたから良かったものの、当たり所が悪ければその後ろにいた自分も含めて奈落の底だった。
「ここは甘くないぞ…!」
一気に全員の緊張が高まる。まずは4人の体重を支えるビレイポイントを構築しなければならず、先頭の早戸くんが一旦カムを突っ込み、さらにハーケンをカンカン。ていうかまだ全員ハーネスはいていないし!
そんななか、西村代表がもよおしてしまう。「えっ、このタイミングで…!?」と他3人は狼狽したが、もよおしてしまったものはしかたがない。代表の判断に躊躇はない。
用を足すため西村代表はハーネスをつけずにA0、他の3人はクラっときて落ちないように、しっかりとセルフビレイを取った。
取り付きではよくあることなのだが、ちなみに早戸くんは「ハーネスしててもできますよ」と自信満々だった。
ともあれ、ようやく早戸リードでクライミング開始。スラブをトラバースし、フィンガークラックに取り付いた。
しかしどうにもこれも甘くはなさそうだ。
「やめとこう」「あきらめよう」「くさい」と下から口々言われ、悔しそうにセットしたカムをはずす早戸くん。フリーなら行けると思うが、そもそもその先が取り付きに繋がっている保証もない。
てことで、中央ルンゼは取り付き以前に敗退。でもこういう本番の緊張感のなかでの敗退は、1回の講習会以上に勉強になる。と、ポジティブシンキング。
懸垂で雪渓に戻る
さて、目標を失った4人はどうしようかとはたと思案。
そこで2日目にも平蔵谷から剱岳本峰南壁に登っている早戸くんが提案。「源治郎尾根から少し外れたところに、めっちゃ●●に似た岩がありますよ!」
ほほう、●●岩とな! そこ、行ってみよう!
近くに行くと、●●な形がより鮮明に
標高が上がるほど会話の中身が低くなる千種アルパインクラブ。各人の頭のなかにはマライア・キャリーの歌が流れていたという。
しかしここで代表から「創立30周年も近いし、会の品格を疑われるような表現は避けるように」とのお達しが。
襟を正し、「●●にも似てるけど、facebookのいいねボタンにも似てるよね」などと会話の方向性を修正する。
がしかし、割れた雪渓や登られてなさそうなルンゼが立ちふさがり、●●岩も意外と手強い。
Ⅲ級くらいの岩壁を各自フリーソロで登ったあと、楽なルート楽なルートと迂回しながら高度を上げ続けていると、だんだんと遠くなっていく。
しかも横からみるとあまりそそり立ってないのでそそられない。
「これだったら南壁行く?」とまたしても臨機応変に目標変更。
南壁は2日目に早戸くんが登っているので間違えようがない。
休憩地点から見上げた南壁
草付きを詰め、正面左の小さいルンゼが2本並んだあたりが南壁A2稜だと教えられ、西村・宮崎組がそこに。その右手から回り込むなだらかな稜線がA1稜だということで、早戸・吉川組が向かった。
ここでようやくロープを出す。ただ早戸くんによると、Ⅲ級で登山靴でも行けるくらい簡単とのこと。
1ピッチ目:西村
簡単、と言われていたが、西村代表が登りだしてすぐに何かがおかしいことに気づく。
うめき声が聞こえる。ロープがなかなか伸びない。そして頭上からは「頼むよー!」「張り気味でー!」という声が。マジ!?
たっぷり1時間以上かけて、「ビレイ解除!」との声。フォローで登ったら、その理由がわかった。
岩がもろい、もろすぎる。ガバと思ってつかんだらもげる。もげるガバはガバじゃない。常に岩を押さえつけるようなムーブになる。
背中にしょったままのクライミングシューズがうらめしい。
ピナクルで終了点を作っていた西村代表。ボディビレイに切り替え、フォローの宮崎が先に5mほどクライムダウン。新たに終了点を作る。
2ピッチ目:西村
さっきよりはマシだがまだまだもろいリッジを登っていく。1ピッチにひとつくらい、推定40年もののさびた残置ハーケンがある。
3ピッチ目:宮崎
またもクライムダウンでリッジから広いルンゼ状の地形の上部へ。簡単なトラバースでロープをのばし、草付きを上がる。
4ピッチ目:西村
コンティニュアスで左上し、顕著な凹角の下まで。
5ピッチ目:宮崎
ギザギザのクラックが入った顕著な凹角をステミングを駆使して登る。流れで登山靴のまま登り始めてしまったが、ここもクライミングシューズで登るべきだった。
最後はかぶったチョックストーンを豪快に乗り越える。そのムーブのときにザックが岩をこすって、落石を起こしてしまった。西村代表間一髪避ける。やはり登られていないルートは危ない。
とはいえこのピッチは「たーのひぃー!」と叫んでしまうくらい楽しい。最後の最後でクライミング欲が満たされるとは…。体感5.9くらい。クライミングシューズなら5.8か。
ハイマツでビレイ。そこから山頂の早戸くんが見えた。
ようやく合流
とりあえず出会うなり「どこが登山靴で余裕のⅢ級じゃ!死ぬかと思ったわ!」と文句を言う。
逆に早戸・吉川組は30分ほどで山頂に到着し、我々を2時間半近くスマホをいじりながら待っていたという。
我々はどのルートを上ったんだ…?
というかこれは本当に剱岳南壁だったのか…??
皆の頭のなかに「???」がくるくる回りながら下山開始。
カニのよこばいの先の鉄の杭を使って平蔵谷へ懸垂下降した。(これはむしろ平蔵のコルまで歩いて降りたほうが早い)
平蔵谷から見ると、南壁の全体像がわかってきた。カニのたてばいが南壁A4稜なので、そこからA3、A2、A1と数えていく。
西村・宮崎組が登ったのは、A1稜のさらに東側、言わばA0稜みたいなところ。南東壁と言ってもいいかもしれない。
早戸・吉川組はさらに東側の無名ルート。ただ、踏み後はあったことから、迷い込むクライマーは千種の人々だけじゃないのだろう。
ただ、高度感もあり、山頂に抜けるだけに、今後もっと人が登ることでスッキリした好ルートになるかもしれない。
平蔵谷は長治郎谷よりも上部のガレ場が格段に下りやすく、雪渓もつながっているので気持ちよく走って降りられた。
最終夜は西村代表持参のハンバーグカレーを食べ、四日間の登山活動を無事に終えられたことを喜びながら、みんなで酒を飲み尽くして就寝した。