お疲れ様です。吉川です。
2015年夏の剱岳合宿で剣尾根主稜を登った記録です。
トラブルはあったものの、天候や運に恵まれ、無事登らせてもらえました。
剣尾根は剱では手強い部類の尾根だと聞き、出発前の僕の不安は膨れ上がっていくばかりでした。ウェブ上には剣尾根の記録は意外に少なく、あっても情報が少なかったり断片的な情報だったりで、ネットサーフィンだけでは僕の不安を拭えず、市の図書館に足を運び、登山大系や「日本のクラシックルート」を探し出して剣尾根主稜の記述を熟読した上で今回の山行に臨みました。
メンバー:宮﨑、吉川
行程:
20日 真砂沢ロッジ~長次郎谷出合~八ツ峰5.6コル~6峰、7峰、クレオパトラニードル登攀~池ノ谷ガリー下降~剣尾根R10~コルE
21日 コルE~剣尾根主稜~長次郎の頭~長次郎のコル~空荷にて剱岳本峰ピストン~長次郎左俣~熊の岩~真砂沢ロッジ
記録:
20日
5:30。明るくなり始めた真砂沢ロッジを出発。軽量化を意識していたが一泊分の装備はずっしり重い。
すぐに長次郎谷の出合に到着。前方に何パーティかの登山者が雪渓を登っているのが見える。
「傾斜が強くなる前に」と思い、アイゼンを装着して5分ほど歩いたところで不意に左足のアイゼンが外れた。あれれ?ちゃんと締めたはずなのに。
「アイゼンが外れました」と宮﨑さんに伝え、もう一度靴をよく見ると、なんと左足の踵部分のソールがベロンと剥がれているではないか。すぐに「いや、靴が壊れました!」と状況を訂正。さすがの宮﨑さんも「ええー!?」と焦っている。
セミワンタッチアイゼンの踵部分のコバがソールを剥がす方向に力を加えていたらしい。7年使った靴なのでさすがに寿命か。
靴の破損は致命的だ。BCのテントで五日間膝をかかえている僕の姿が頭をよぎる。
いや、まだソールがすべて剥がれたわけではない。テーピングで応急処置しよう。でも僕のテープは自宅だバカヤロウ。
宮﨑さんのテーピングを貰ってぐるぐる巻きにしてみたところ、なんとか形になった。アイゼンも着けられるし、八ツ峰の縦走までならいけるのではないか?行けるところまで行ってみることにする。
5.6のコルには歩いて上がれるとのことだったが、確かにどう見ても歩いて登れそうである。これなら間違えない。
5.6のコルに上がると3人パーティが6峰に向かって登攀中で、終わるのを待って我々もロープを出して登った。
1P目 リード吉川
壁を右に回り込んでルンゼをコルへ上がる。ロープスケールでちょうど50m。
ピンが取れそうなところが見つからなかったが、とる必要もないと感じ、ノープロ。
2P目 リード宮﨑
出だしが悪い。直上はかなり悪いので、少し左から登った。途中凹角に入るとまた悪いので右のカンテ出て登った方が良い。
終了点は肩のような場所のブッシュでとる。
そこからすこし登って、懸垂下降。
7峰は歩いて登って、ギャップを懸垂下降。
そこからは右側についている巻き道を歩いていった。チンネが見えてきたところで、手前にクレオパトラニードルが現れた。予定にはなかったが、宮﨑さんの2年前の宿題でもあるのでクレオパトラニードルにも登ることにした。
クレオパトラニードル 1ピッチ リード吉川
どこから登るのかよくわからなかったが、弱点だろうという場所からフラットソールで取りつく。
カムやナッツ、ハーケンを駆使して登るつもりで気合をいれて登ったらすぐに残置ハーケンが出てきて拍子抜け。ですよねー。
岩の表面はパリパリ剥がれ、ガバは信用できないので持ちにくいホールドで登った。ハーケンはバチ効きなので安心。
終了点からは懸垂で降りた。ただ置いている岩にしか見えない(でも全然動かない)ピナクルに残置スリングが大量に巻いてある。
クレオパトラニードルの寄り道のおかげでタイミングが合い、チンネの終了点のコルで日本山岳会東海支部青年部のTさんやFさんのパーティと、千種の鵜飼、酒井パーティと落ち合うことになった。ここでFさんと酒井さんからテーピングを譲っていただき、ボロボロになったテーピングを補強した。今のところ悪化もしておらず、テープも潤沢にあるため行動を続行することにした。Fさん、酒井さん、ありがとうございました。
チンネ左稜線の酒井さん?
池ノ谷ガリーの下降は悪い。ボロボロガレガレの谷を神経を使いながら降りてゆく。このタイミングでガスまで出てきて無駄に雰囲気まで出てきやがった。視界が聞かず目的のR10を探すのも困難になりそうだ。
池ノ谷尾根の末端付近から雪渓が出てきたのでアイゼンを履いて、さらに下降を続ける。いくつかのルンゼを見送ると、霧の向うに明らかに傾斜の緩いルンゼが出てきた。R10だ。懸案だった雪渓からの乗り移りは数十センチの隙間程度だったのでジャンプで解決。
R10は見た目こそ草付きの穏やかな谷だが、その正体はガレッガレのルンゼだ。もうガレ場にはうんざりだが、今日最後の我慢だと自分に言い聞かせて登る。30分程度でコルEに到着。この時点で16:45。さすがにビバークポイントを探したい。コルEの早月尾根側を見下ろすと10mほど下ったところにちょっとしたスペースがあるように見える。踏み跡らしきものもあるので下ってみたところ、3テン程度のテントなら張れそうなくらいの平らなスペースを発見した。明らかに人為的なものを感じる。これは素晴らしいビバークサイトだ。土木工事ともいえるほどの整地をしてくれたどこかのどなたかに心の中で感謝する。
この先コルDやコルCにもビバークできそうな場所はあったが、剣尾根上では安全面も含めてこの場所が最も良い場所だろう。この剣尾根ホテルからは富山の夜景もきれいに見える。
素晴らしいビバーク地
ここにツエルトを張り、早月尾根を眺めながら夕食を済ませた。夜のうちに靴のテーピングをしっかり補強した。踵に巻いているので登りには強いが、下りではすぐに破けてしまう傾向にあるようだ。明日の登山の無事を祈って就寝。
21日
前日と同じく、明るくなる5:30頃に出発。今日はハイマツの激しい藪漕ぎからスタートだ。強い傾斜の尾根を枝をかき分け掴んで登っていく。踏み跡は何となくある。
意外とすぐにコルDと思われる場所に到着。正面には20mの壁が立ちはだかる。ここは宮﨑さんが登山靴のままリードで突破。意外に傾斜の強いフェースで、残置は少ないが割と悪い。心配ならクライミングシューズを履いたほうが良いと思う。
そこを過ぎると尾根はやせ、ハイマツも少しずつ減ってきた。ちょっとした岩登りと藪漕ぎがつづく。
すこしいやらしい個所をクライムダウンするとコルCに着く。コルCそのものはビレイも面倒な位狭いが、早月尾根側に少し下ったところでビバークできそうだ。
ここからが、剣尾根主稜の核心になる。
核心全景
1P目 リード吉川
A1のピッチなのでアブミをもって登り始める。最初の5mはフリーで直上。そこから右に5~6枚ほどのスリング付きハーケンが約5mにわたって並んでいる。ここがA1だが結局、ハーケンの効きを確かめながらA0で抜けた。現代のクライミングシューズでならA0で問題ないだろう。強い人はフリーで抜けられるだろうが、僕には荷物が重くてさすがにキツイ。リッジを回り込むとあとは弱点を突きながらフェースを登る。踏み跡に出たところでビレイ。
そこからは少し歩き。そして今回のメインの「門」だ。またもやガスが出てきて不要な雰囲気が出てきている。
「門」 リード宮﨑
凹角に向かってバンドを歩き、途中のクラックにそって登る。クラックの序盤は傾斜が強いこと以外は問題ないが、簡単な左へのトラバースをこなした後の傾斜が少し緩くなったクラックは岩がもろくなり悪い。落ちそうな浮石もある。
リッジに出たところで終了。次のピッチは簡単なもろいルンゼだが、一応ロープを出して約50mを吉川リードで登った。このピッチでいわゆる「門」をくぐる。
稜線に出たところでガチャ類やロープを仕舞い、靴を登山靴に履き替え、残りはすべて歩いた。微妙な個所もあるにはあったが、すべて登山靴のままフリーで抜けることが出来る。稜線の下部に比べると岩も少しはしっかりしているのでちょっとは安心して登れる。1個所だけ、ザックを背負っているとつらいⅢ級程度のチムニーがあったが、短かったのでザックを下ろして登って、トップが手でザックを受け取って引き上げた。
途中にこんな場所もある
剣尾根の頭はどこだか分らなかったが、無事長次郎のコルに到着。ここでまた千種のパーティとすれ違う。今回は計ったようによく人に会う山行である。コルに荷物をデポして空荷で劔岳頂上を往復した。頂上でお互いの健闘を称えた。
長次郎谷の下降はやはりかなりガレガレでめんどくさいが、池ノ谷ガリーに比べるとまあマシだろう。でもガレ場の通過はもういいよ。この日は前夜の靴の補強がうまくいったようで、最後まで追加の補強をすることなくもってくれた。
二日ぶりに真砂沢ロッジに着くと合宿メンバーに加え、瀧根さんもいらっしゃった。もうヘトヘトだ・・・
瀧根さん曰く、青年部のTさんが僕の靴をかなり心配していらっしゃったとのことだった。確かに今回は運よく切り抜けることが出来たが、毎回うまくいくとは限らない。やはり靴が壊れれば行動は断念した方が良いだろう。今回はあまり良い判断ではなかったかもしれない。
実は山の中で僕の登山靴のソールがはがれたのは、これで3回目だ。限界の状態で山に履いて行っているのも問題かもしれないが、よく起こる現象だともいえるので、今後も気をつけたい。
以上です。剣尾根は良いルートですが、アプローチが大変でした。もしもまた登ることがあったなら、今度は絶対馬場島からのアプローチにするでしょう。もう池ノ谷ガリーは降りたくない・・・