1皮です
またまた敗退記録(たぶん50回目位)を書くことにします(-_-;)
美濃戸口1:30-4:30行者小屋手前の登山道の標高2260m地点-7:30 2370m位?-9:30美濃戸口
午前1時すぎ、車を美濃戸口の駐車場に入れた
エンジンを止めると、堅い雪の粒が車のフロントガラスに当たる音が聞こえる
こんな時は何も考えず、ただ出発準備するのがいい
外は寒いかな、雪はいつやむかな、などと考え始めると
すぐに車から出るのが億劫になってしまうから
林道には新雪が10㎝
車が圧雪したツルツル道が隠れて、かえって歩きやすいぐらいだ
美濃戸山荘を過ぎて南沢沿いの道に入る
登山道沿いの左右の雪の壁と、雪が鎧のように固まった針葉樹が目に付く
こんなに雪の多い八ヶ岳は久しぶりだ
今晩の新雪は20㎝を超え、さらに降り積もっている
数時間前に誰か歩いたのだろうか、足跡がかすかに続いていた
ありがたく、人の温かい痕跡に導かれていく
冬の夜に山を一人で歩くと、宙に漂っているような不思議な感覚にとらわれることが多い
ラテの光が雪の結晶に反射して、あっちでもこっちでもキラキラ光るし
雪が回りの音を吸収して自分の息づかいしか耳に入らないから
木々の後ろでこちらを見据える獣の目、枯れ草を静かに踏む何かの足音、暗闇を猛スピードで飛ぶ羽音・・・
何か得体の知れないものと出くわしてしまうのでは、といった夏の夜のドキドキ感とは無縁だ
南沢の水音が途絶え、道の傾斜が緩くなると、目印を見逃さないように注意して進む
阿弥陀北西稜の入り口はすぐに見つかった。何本かの赤、黄のテープが1本の木にまかれていた
トレースは、ない。たぶん雪で消えてしまったのだろう
雪面がやや歪んだトレースの痕跡があるが、5mぐらい先で歪みが是正され、なめらかになっている
そんな時も何も考えず、足を踏み入れる
膝、太もも、腰の高さへと、次第に雪は深くなった
登山道からほぼ平たんを直線距離で70~80m。そこから急斜面に入る
今晩の新雪30㎝ほどをどけても、下層の雪が体重を支えてはくれない
雪は腰を軽く超え、胸や頭の高さになった
この3連休、北西稜にはだれも入ってないのか? それとも、取り付きまでの目印を間違えたか?
まあ、そんなことはどうでもいい。今更考えても遅いから
アックスで表面の新雪を削り、膝で中程のやや堅い層を崩し、足で踏み固める
ゼンマイ仕掛けの人形のような単調な動きを続ける
周囲が明るくなってきた。時計を見ると7時半
ラッセル3時間で、たぶん標高差で100mほどしか登ってない
岩場が出てくるのは標高2650m位だろう。このままいくと、あと6時間はかかりそうだ
空腹を感じて、腰を下ろしてカレーパンを食う
今まで気づかなかったが、雪をまとった杉の木が、強い北西風にギシギシうなっている
乾いた冬の木々はもろい。もし倒れてきたら、雪にはまって逃げられないから嫌だな
カレーパンも氷点下20度になると、身を固くする
最後の一口をやっと飲み込み、もう帰ろうと思った
降り始めたら、たった5分で登山道
振り返ると、なめらかな雪面に物を引きずったような醜い跡をつけただけだった
車を置いた美濃戸口。もう青空が出ていて、日差しがまぶしい
駐車場を管理する八ヶ岳山荘に駐車料金を払いに行くと
おやじさんが「お宅も北西稜に行ったんかね。昨日はすごく込んでいたらしいよ。登った人がそう言ってた」と教えてくれた
条件が厳しくても、登れる人は登れるんだな。それもたくさん
まあ、いいさ。もう50回目だし。登らずに帰るのにも慣れてるから