ミヤザキです。
1ヶ月近く前のことでだいぶうろ覚えになってしまいましたが、3月に瀧根さんと行った戸隠本院ダイレクトの報告です。
【3月20日】 上楠川公民館6:00-ダイレクト尾根取り付き8:00-参道ルンゼ10:30-16:30P8手前キノコ雪上幕営
【3月21日】 幕営地7:00-12:00プラトー-14:00P9上-16:00プラトー-18:30幕営
【3月22日】 幕営地7:00-9:00上楠川公民館
この週半ばの17日、長野市の気温は21度まで上がった。
それから2日間、雨。 はたして戸隠の山はどんな姿になっているのか。前週の大雪がいい具合に落ちている可能性もある。
淡い期待を抱いでワカンを車にデポし、上楠川公民館を出発した。
その期待は、すぐに打ち砕かれる。 川沿いのアプローチ道、踏み跡の上に乗せた足がズボる。
ズボズボと雪にはまりながら、2時間ほど水平移動。途中、泥壁の下りがいやらしかった。
今にも崩れそうなスノーブリッジを渡る。
ダイレクト尾根取り付きからもズボズボしながら登る。思うようにペースは上がらないなか、トップを交代しながら参道ルンゼに到着。
参道ルンゼもズボズボ。
P2(?)のフェース登り。フリーソロで突っ込む瀧根さん。しかたなくフリーソロでついていく。Ⅴ級くらい。ロープ欲しいっす…。
ようやく出てきたキノコ雪。喜々として取り付く瀧根さん。木登りからのスコップで崩してダイナミックに突破。
雲が流れて、八方睨が顔を出した。浮き世離れした景色。
しかしなかなか進まない。 とにかく雪が悪い。
ズボる、崩れる、決まらない。
本院ダイレクト3度目の瀧根さん曰く、「最悪の状態」。
途中、ミヤザキがキノコ雪の突破に失敗して2mほど墜落。その拍子に瀧根さんのザックが西沢に落ち、ころころ転がって行方不明に。 責任持って探しに降り、約200mほど下って雪崩のデブリの中で発見。登り返して大幅にタイムロス。 プラトーまで行く予定だったが、核心と言われるP8の手前で幕営することに。
雲海に浮かぶキノコ雪の上にドーム型ツェルトを張る。
一晩中風が強く、バタバタと顔をたたかれてなかなか眠れない。寝付いたのは明け方。瀧根さんも同様で、出発時間遅れる。
さらにP8が「え、どこ登んの??」っていうくらいの最悪の状態。ここの突破に約4時間を費やした。
ようやく到着したプラトー。ついに山頂が姿を現した。
その前のP9を観察。うーん、雪がつながっていない…。
ここで敗退するか協議したが、もう少し進んでみることに。 ザックをデポし、ロープを首にかけて空身で出発。
P9は右からトラバースして巻くことにする。明らかな雪崩地帯を距離を置いて一人ずつ突破。
昼を過ぎて気温が上がり、雪はさらに悪くなる。雪壁登り、草付き登り、クマザサ登り。クライミング力というより突破力を問われる難関が続く。
どうせプロテクションも取れないのでフリーソロ。先行する瀧根さんに必死でついて行く。
帰りたい気持ちと進みたい気持ちが交互にやってきて、気づけばP9の上に出た。
「ヒマラヤみたいだな」
K2登頂歴のある瀧根さんが苦笑いする。 ヒマラヤに行ったことはないが、こんな大変なところなのか。長野でヒマラヤに近い経験ができたと思えば、得なのだろうか。
山頂までおよそあと2ピッチ。しかし、ピーク直下の雪がつながっていない。
岩を登れるかどうか、トラバースして偵察に向かう瀧根さん。
肩がらみでビレイ。念のため、目の前のピナクルにロープをかけておいた。
その直後、瀧根さんが消えた。
足元の雪が崩れた。
テンションがかかる。が、止まった。
少しして、瀧根さんが這い出してくる。良かった、無事だ。
こちらに叫ぶ。
「もうやめにしよう!」
もちろん異存はなかった。
自分一人の実力では到底ここまで来れていない。
雪壁を下って、立木での懸垂下降を2回はさみ、再びデブリ帯をトラバースしてプラトーへ。 一息つくと、そこからシリセード混じりで一気に高度を下げ、西沢に降りた。
西沢は雪崩の巣。気温が下がってさほど心配はないが、一刻も早く抜け出したい。
それなのに雪が悪すぎていちいちズボズボと膝上くらいまで足を取られるため、デブリの上のほうがまだマシ。 こんなに時間のかかる下りは始めてだった。
1100mあたりまで高度を下げたが、完全に日没。
沢はところどころ大きな穴を開け、激流に落ちれば致命的。 おそらくあと2時間で車に着くが、ここは無理せずビバークとした。
翌朝、ゆっくりと起きて非常食を食べ、下山開始。途中の泥壁は登らず、川の中をザブザブ進んだ。
約2時間で上楠川公民館に到着。神告げ温泉に浸かり、「うずら家」でおいしい蕎麦を食べ、帰宅した。
千種アルパインクラブとして、戸隠本院ダイレクトへの挑戦は5度目となるが、一度も登頂を果たせていない。
今回最も山頂に近づいたものの、3月中旬ではもう遅いということがわかった。
2月下旬から3月上旬、しかも雪が安定したタイミングが狙いどころとなりそうだ。
千種の鬼門、戸隠本院ダイレクト。来年もまた挑戦するかと言われれば、正直微妙だ。
それほど、生命の危険と向き合った山だった。