ミヤザキです。
お盆に雨で中止となった前穂東面夏合宿のリベンジ山行として、7人という大人数で前穂四峰正面壁に向かいました。
【14日】上高地バスターミナル5:00-8:00中畠新道分岐8:20-12:00北条新村ルート取り付き-登攀開始13:00-下降開始17:20-17:40ハイマツテラス
四峰正面壁。雪渓は予想以上に残っていたが、6本爪アイゼンとミゾーのチコハンマーという軽量化重視の装備で突破。
上高地から7時間もかかって北条-新村ルートの取り付きに到着。
大人数だと休憩時間にしろ、歩きのスピードにしろ、ひとつひとつの行動が遅くなってしまうことを痛感した。
ここまでの話は「ようやくアプローチに着いた」という名言を残した原田さんの記録に期待して割愛。
先行は岩佐・早戸組。
赤いアルパインクライマーソックスにクライミングシューズをはく千種の若頭・早戸くん。
「変ですかね?」と聞くので「うん、かなりダサい」と率直に答えると、いそいそと脱ぎ始める。
これが原因で(?)、数時間後に彼の足首は血まみれになる。
ということで素足でビレーする若頭。それはともかく、人の頭の上で盛大にオナラするのはやめてほしい。
岩佐・早戸組の姿が見えなくなるのを待って、斉藤・宮崎組も登攀開始。
1P:リード斉藤
草付きのガリー右側の岩を快適に40mくらい。
しかし、フォローの宮崎がここで大失態。
終了点で回収したヌンチャクを渡そうとしたとき、今ここで落としてはいけないものランキング1位のATCが、環付きビナごと宙を舞った。
ああ~
と思うまもなく消えていくオレのATC。
まさかの1ピッチ敗退が頭をよぎるが、ここは探すしかない。斉藤さんにはボディビレイに切り替えてもらい、クライムダウンしながら探索。
半泣きになりながら取り付きまで降りると、なぜか松高ルートに行ったはずの上手さん原田さんがいた。
「ATC、落ちてきませんでした?」
わらにもすがる思いで聞くと、
「見てないけど、ドサっていう音がした気がする」
と原田さん。近くにあるのは間違いない。が、あたりは一面草付き。ここでゆっくり探している時間もない。
迷っていると、
「オレの貸そうか?こっち3人パーティーだから、一人はなくても大丈夫でしょ」と原田さん。
は、はらださん…(涙)
ということでありがたい提案に迷わずルベルソをお借りして、この先3日間くらいは原田さんへのリスペクトを忘れないで生きよう……と心に誓いながら1ピッチ目を登り直し。
2P:リード宮崎
ATCの件に動揺していてよく覚えてないけど、適当に30mくらい登ってピッチを切る。
3P:リード斉藤
ちょっと登ってハイマツテラスまで。この前半3ピッチはⅡ~Ⅳ級とのことだが、ほとんど残置ハーケンでランナーを取れるお気楽なピッチ。
問題はここからだ。
4P:リード宮崎
ハングを2つ超えるⅣ級A1の核心ピッチ。
人工登攀の経験は一度しかなく、8月のアブミトレーニングにも行けずじまい。加えて1ピッチ目の失態。
楽しみより不安がかなり勝っているが、行ったらなんとかなるやろ!と気合いを入れて突撃だ。
最初の小ハングは壁に下がってるお助けスリングつかみつつ、フリーっぽいムーブで突破。ビバーク装備と水の入ったザックが重い。
核心の大ハングを前に、しばし立ち往生。どうやって抜けるんだ、これ…??
ヒントは右にたれている残置スリング。これに届くようにハーケン打とうとしたが、探したらリップの上にも残置ハーケンがあった。
自分のアブミに乗ってから残置スリングに右足突っ込んで立ち込み、左ハンドジャムから仰向け気味にガバをとり、一気に体をあげてマントル返す。
と書くとあっさりしているが、しんどい!標高2800mでこんなムーブやらせんな!とハアハア言いながら声にならない悪態をついていたら、3m横の終了点にフリーで抜けたという若頭がいた。
「おつかれっすー。ここまだ使ってるんで、一段下に終了点作ってくださーい」
あれ、まだそんなとこ?と思ったが、どうやら5ピッチ目のトラバースをリード中の岩佐さんが苦戦しているようだ。
息を整えていると、若頭のおしりからまたも「ブーッ」と音が。こういう逃げ場がないうえに空気の薄いところで人の頭上でオナラをするのは、本当にやめてほしい。
とりあえずフォローの斉藤さんに残置した自分のアブミの回収をお願い。「怖いよ-」とか女子アピールしながらなんだかんだ登ってくるのが斉藤スタイル。
それにしても、岩佐さんが進まない。
「×○△※×□■※×○●!」
何やら叫び声が聞こえる。
ハーケンを打つ音も聞こえる。
どうもただごとではないようだ。
かれこれ1時間以上もハンギングビレイをしていると、さすがに足がしびれてくる。エコノミークラス症候群になりそうだ。しかも寒い。
ようやく岩佐さんがピッチを切り、早戸くんが動き出す。
それに合わせて、斉藤さんに核心部を突破してもらう。
雲が上がってきた。夕方だ。時計を見る。17時過ぎ。
残り2~3ピッチだが、先行する二人を待ちながら登っていては、夜間登攀になってしまうだろう。
「降りようよ」
斉藤さんの提案は、至極真っ当だった。
ハング&トラバースのピッチだったということは、終了点から懸垂下降しても開始点に戻ることはできず、着地点の地形も見えない。
緊張の懸垂下降は、経験豊富な斉藤姉さんがトップで。
ハングしているので空中懸垂になり、降り立った場所は急斜面のガレ場。
それでも灌木をつかみながら左にトラバースして、無事ハイマツテラスへ戻ることができた。
日が暮れかけているので、これ以上の下降は無理。
人生初のテラスビバークが決定した。
【15日】ハイマツテラス9:00-12:00前穂高岳北尾根縦走路-14:00前穂高岳山頂14:15-16:00岳沢小屋16:15-17:30上高地バスターミナル
ツェルトの内部が明るくなって、目が覚めた。外を見ると、常念山脈から朝日が上がっていた。
前夜は斉藤さんが持参したウイスキーで一度は寝付いたものの、22時ごろに目が覚めてからは寒さでなかなか寝付けなかった。
ロープやザックをマット代わりに敷いて寝心地はそんなに悪くなかったが、ガタガタと震えが止まらなかった。
軽量化のためシュラフは持ってこなかったが、シュラフカバーも持ってこなかった斉藤さんはクレイジーだと思った。
岩壁にロープをフィックスし、そこにツェルトを通した我々のテラスハウス。 ハーネスをはいたままセルフビレイを取りながら寝たのも初めてだ。
一度夜中に谷側に寝返りして体重ををかけてしまい、ロープの高さを保つために壁に浅くはめていたナッツが外れて、ツェルトがつぶれた。
ドキドキしたが眠かったので放っておいたら、斉藤さんが立て直してくれて感謝。
朝日を浴びながら朝食を食べ、出発準備を進めるが、二人とも動きが遅い。
この日はもう当初の予定通りの明神縦走はできない。したがって行動の選択肢は3つ。
①敗退下山 ②北条新村ルート続行 ③松高ルートに変更
前日夕食時に話し合った結果は②だった。恐怖の核心ピッチをもう1回登るのは精神力が必要だが、二度とここに来ることはないかもしれない。
なんとか出発しようかという7時ごろ、人が登ってきた。
どこかで見覚えがある。昨年12月に南沢大滝でも会ってる成田賢二ガイドだった。
先を譲ると、おばちゃん二人を叱咤激励しながら引っ張り上げていく。速い。しかしこちらはまたしても時間をロス。
気を取り直し、あらためて出発しようとした9時ごろ、またしても人が登ってきた。
どこかで見覚えがある。というか曽我さんだった。
「昨日長いこと壁にぶらさがっとったでしょ。怪我したかと思って救助に来たよ」
丁重に救助をお断りし、ようやく出発。
4P(再):斉藤リード
前日は宮崎がリードしたので、この日は斉藤さん。「ねえ、怖いんだけどー」と女子アピールしながら、抜けてった。
前日の自分同様、アブミの回収はフォローに。一度こなしているムーブなので、フォローではたやすい。
ただし、前日に足をかけて登った白い残置スリングが切れそうだ。斉藤さんが体重かけたらミシミシ言っていたらしい。
近いうちに誰かが落ちるロシアンルーレットを放っておけず、別のスリングにかけかえておいた。ちょっと短くなったが、まあいいだろう。
5P:宮崎リード
前日に岩佐さんが苦戦していたピッチ。
やや下り気味のトラバースは怖いが、スタンスはけっこうある。ガバだと思って握った岩がはがれて落ちたときは、「ウォッ」と声出ちゃったけど。
6P:斉藤リード
ちょいちょいテクニカルなムーブで高度感のあるカンテを登る。
トポにはこの2ピッチ合わせてⅣ級+、A0と書いてある。特にA0するところはなかったが…。
7P:宮崎リード
今までのピッチはなんだったんだというくらいガバガバですっきりした快適なⅢ級。植物がたくさん生えてるテラスみたいなところでカムとピナクルで終了点を作る。
8P:斉藤リード
草付き、灌木のなかを右上。案の定ロープの流れが悪い。フォローの宮崎は登山靴に履き替え、ロープ巻きながら登る。
これでようやく前穂北尾根に合流。
適当にルートファインディングしながら北尾根4峰を登ったが、奥又側を巻いた踏み跡に入ったら失敗。ガレた下りから3、4のコルに。
【前穂北尾根3峰】
1P:宮崎リード
ロープ使う必要ないし、登山靴で登れる、と某先輩に聞いていたので突っ込んでいったら、どうも正規ルートとは違うところを登ってしまったっぽい。
案外悪いじゃないか、と途中でロープ1本だしてもらい、めいっぱい伸ばしてピッチを切る。
2P:斉藤リード
洞窟みたいなチムニーに突入し、右上の窓から出て、50m近く伸ばして終了。
これも正規ルートとは違ったっぽい…。
3P:宮崎リード
正規ルートを外れたまま、ラインとしては自然な山頂に抜ける凹角を登る。
残置ハーケンもほとんど見当たらないので、カムで支点。1カ所ハング気味だったが、ガバなので思い切って抜けられて気持ちよい。
三峰はたしかに登山靴でも登れるが、ロープはあって良かった。
二峰の懸垂下降ポイントは、3mくらいの簡単なクライムダウンだった。
あとは歩いて山頂へ。二日がかりでようやく前穂高岳のピークを踏めた。
山頂からは重太郎新道で岳沢まで2時間、さらに1時間で上高地に無事下山。
しかも北条新村ルート1ピッチ目で落としたATCと環付きビナを、“救助”に来てくれた曽我さんが発見・回収してくれていた。
最後はみんなを5時間近く待たせてしまい恐縮しながらの合流でしたが、二日間ともにがんばった斉藤ねえさんはじめ、いろんな人にお世話になって、思い出深い山行になりました。